1〜2週間で自然に治る関節炎 [りんご病の原因ウイルスによる関節炎]

1〜2週間で自然に治る関節炎 [りんご病の原因ウイルスによる関節炎]

関節炎の原因には様々な病気があります。原因の一つである関節リウマチは自然に治る方はごく稀ですが、ウイルス感染を原因とする関節炎は、ほとんどの場合自然治癒します。世界中で関節炎を患う方の1%程度がウイルス感染症による関節炎だと言われており、原因ウイルスとしては、パルボウイルスB19(リンゴ病を起こすウイルス)、B型/C型肝炎ウイルス、そして、トガウイルス科アルファウイルス属に属するウイルス群の3つが多くを占めます。

ここでは、最近関東地方を中心に2024年末・2025年始に流行したりんご病(「パルボウイルスB19」というウイルスによる感染症)による関節炎を中心に紹介します。

りんご病とは

りんご病とは、パルボウイルスB19というウイルスによる感染症です。右の写真のような、両頬の蝶翼状の紅斑を特徴とし、小児に流行します。経過としては、両頬の紅斑が出現する10〜20日前頃にウイルスに感染し、紅斑が出現する7〜10日前頃に微熱や感冒様症状(鼻水、喉の痛み、咳など)を呈することが多く、この頃に感染力が最も高いと言われています。咳やくしゃみ(⾶沫感染)や、感染者が触れたところを指などで触れた後に指を消毒せず⼝/⿐/眼などの粘膜に触れる(接触感染)などにより感染します。園や学校での集団感染を起こしやすく、また家庭内感染率も50%と高いです。そして最終的に両頬の紅斑が出現する頃には一般的にウイルスの排出は終わっており、感染力はほぼありません。両頬の紅斑のほか、手・足に網目状・レ−ス状・環状などと表現される発疹が出ることもあります。これらの発疹は、1週間前後で自然に消失します。

国立感染症研究所ウェブサイトより
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/443-5th-disease.html

りんご病は稀な病気なのか、それとも多くの子供が罹患する病気なのか

通常半数近くの大人はパルボウイルスB19抗体を持っています。つまり、それまでにウイルスに感染したことがあるということになります。しかし、この文書をお読みくださっている方の中には、子供の頃りんご病にかかった記憶はないという方も少なくないのではないでしょうか?それは、子供の頃パルボウイルスB19に感染した方の4分の1程度が、両頬の蝶翼状の紅斑を呈さず、感冒様症状のみで終わったり、またはそれらすらない不顕性感染で終わってしまうからです。

大人にパルボウイルスB19が感染した場合

子供達の間でりんご病が流行し、パルボウイルスB19抗体を持っていない、つまりそれまでに同ウイルスに感染したことのない大人が感染すると、典型的な両頬の蝶翼状の紅斑が出現することは稀である一方、半数以上の方(特に女性)が関節痛・関節炎をきたすと言われています。手指などの小サイズの関節の痛みや朝のこわばりから始まり、追加性に中〜大サイズの関節にも波及します。はたから見ると関節リウマチや膠原病疾患の発症に極めて似ています。さらに悩ましいことに、多くの患者で一過性にリウマトイド因子や抗核抗体などが陽性を呈します(正常上限を若干超える程度の低値である場合がほとんどですが)。

米国リウマチ学会提供

大人の場合でも、子供と同じく、振り返ってみると、関節痛・関節炎が出現する7〜10日前頃に微熱や感冒様症状(鼻水、喉の痛み、咳など)を呈していたという場合が多いです。このようなタイムラグがある理由は、パルボウイルスB19自体が直接関節を攻撃するからではなく、パルボウイルスB19に対する免疫反応が関節炎の発症メカニズムに寄与しているからだと考えられています。実際、血液中に早期免疫反応の一つであるIgM抗体が出現してくる頃に関節症状が出現します。パルボウイルスB19感染による関節痛・関節炎は、日常生活に支障をきたすほどではありませんが、痛みや腫れに対して、対症療法として抗炎症薬(ロキソプロフェンやセレコキシブなど)を要する場合も少なくありません。ほとんどの症例では、関節痛・関節は2〜3週間をかけて自然に軽快します。なお、妊婦が本ウイルスに初感染すると、流産や胎児水腫などの重大な事態に至る可能性があるため、妊娠されている方は、産科の主治医の助言に従ってください。

パルボウイルスB19感染症は、4〜5年周期で流⾏し、最近では2015年、2019年に流⾏がありました。2024年の秋ごろから2025年初にかけて関東を中⼼に流⾏が⾒られました。

実際、当院はリウマチ膠原病科も標榜していることから、手足の関節における朝のこわばりや、痛み、腫れを来たし、関節リウマチを心配してご受診くださる患者様が多くいらっしゃるのですが、そのような患者様の5.4%(2024年12月と2025年1月のデータ)で、精査の結果原因がパルボウイルスB19感染症と判明し、2〜3週間で自然に治癒されました。

パルボウイルス19感染症による関節痛・関節炎と関節リウマチとを見分けるには

上記の通りであり、ポイントとなるのは「急な発症、りんご病を患う子供との接触歴、先行する発熱・感冒様症状、1〜2週間で自然治癒」です。

関節リウマチパルボウイルスB19感染症による関節炎
発症緩徐
「この週に発症した」までは
特定できない場合が多い

「この週に発症した」程度までは
発症時期を特定できる場合が多い
朝のこわばりあまり差がなく識別困難
症状のある関節の部位あまり差がなく識別困難
診察所見あまり差がなく識別困難
血液検査リウマトイド因子抗CCP抗体は80%程度で陽性■リウマトイド因子(10%)や抗核抗体(20%)が一過性に陽性となる場合あり(偽陽性)
■抗CCP抗体は陰性
パルボウイルスB19 IgM抗体陽性
関節超音波検査あまり差がなく識別困難
経過■自然治癒はほとんどない
■ただし発症早期は数週間で自然軽快する関節炎エピソードを繰り返す場合もあり(「回帰性リウマチ」という状態)
1〜2週間で自然治癒
他要素■りんご病を患う子供との接触歴
■症状出現の7〜10日ほど前に発熱や感冒様症状

パルボウイルスB19感染症を疑ったらどうすればいいか

関節リウマチなどの慢性の経過をとる関節炎との区別は、上記のように容易ではありませんが、「急な発症、りんご病を患う子供との接触歴、先行する発熱・感冒様症状」などのキーポイントがある場合で、症状がそれほど辛くなければ、1〜2週間様子を見て、それでも自然に治らないようなら医療機関を受診するというアプローチが現実的かと考えます。上記キーポイントのいくつかが欠けていたり、症状が辛く家事や仕事などの日常生活に支障が出ている場合などでは、あまり我慢せずに早めに医療機関をご受診ください。

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