関節リウマチに「よい」食事?

関節リウマチに「よい」食事?

関節リウマチで当院に通院くださっている患者様より、「食事についてはどのような注意をすればよいでしょうか?」という質問を受けることがよくございます。関節リウマチは生活習慣病ではないため、喫煙以外で日常生活で特に注意すべき点はそれほどないのですが、関節リウマチの予防や治療効果について、これまでも様々な食事療法が提案され、研究されてきました。

残念ながら、それらのほとんどは、科学的な根拠に裏付けされた効果が証明されていません。そんな中で、ある程度の質の根拠が示されている数少ない食事療法に 魚油 / fish oil(エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)で代表されるオメガ3脂肪酸)があります。ここでは関節リウマチにおけるオメガ3脂肪酸の効果について紹介します。

魚油 / fish oil を豊富に含む食事や、エイコサペンタエン酸(EPA)またはドコサヘキサエン酸(DHA)を添加した食事は、中性脂肪を下げる効果についてよく知られていますが、関節リウマチへの効果についても1980年代から注目され、研究されてきました。その理由は、魚油 / fish oil に豊富に含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)またはドコサヘキサエン酸(DHA)が、関節局所の炎症に大きく関与しているアラキドン酸代謝産物や、白血球がお互いを刺激し合うために放出するサイトカインを減弱させるということが実験室レベルで示唆されているからです。

A photo taken by Ioannis Sarantis on Unsplash

しかしながら、エイコサペンタエン酸(EPA)またはドコサヘキサエン酸(DHA)をヒトに投与した研究はたくさん報告されていますが、関節リウマチ患者さんの治療における信頼できる効果を示している研究報告は極めて少ないのが実際です。

例えば、ある一定数の患者さんに摂取いただき、「血液中のXXXXが下がりました」という報告はたくさんありますが、それが本当に関節炎の改善につながるのかは疑問です。また「XX%の方に効果がありました」という報告もありますが、プラセボ効果の可能性が除外できません。さらに、プラセボ効果を排除するために「摂取する患者さんのグループ」と「摂取しないグループ(比較群)」を設けた場合でも、それらグループへの患者さんの割り付けが無作為(ランダム)でない場合は、「摂取群の方が結果がよかったが、それは食事療法が効いたからではなく別の因子(交絡因子)が作用したからだった」などの可能性が残ります。

ここで、治療効果をある程度の信頼性をもって示した数少ない研究報告の一つ、2015年に発表された豪州における研究の報告を紹介します。
Proudman SM, et al. Ann Rheum Dis 2015;74:89-95

発症1年以内の関節リウマチの患者さんにメトトレキサート(MTX)、サラゾスルファピリジン(SSA)、ヒドロキシクロロキン(日本では関節リウマチに対しては未承認)の3剤を開始し、効果が不十分なら増量(SSAは1.5g/日まで、MTXは25mg/週まで)し、それでも不十分ならレフルノミドを追加する、という研究で、患者さんを無作為に、エイコサペンタエン酸(EPA)+ドコサヘキサエン酸(DHA)(以下、EPA/DHAと省略)を5.5g/日内服する群(介入群)と0.4g/日する群(比較群)に割り付けました。

 

発症1年以内の関節リウマチの患者さんにメトトレキサート(MTX)、サラゾスルファピリジン(SSA)、ヒドロキシクロロキン(日本では関節リウマチに対しては未承認)の3剤を開始し、効果が不十分なら増量(SSAは1.5g/日まで、MTXは25mg/週まで)し、それでも不十分ならレフルノミドを追加する、という研究で、患者さんを無作為に、エイコサペンタエン酸(EPA)+ドコサヘキサエン酸(DHA)(以下、EPA/DHAと省略)を5.5g/日内服する群(介入群)と0.4g/日する群(比較群)に割り付けました。

 

治療開始1年間の間に、治療効果不十分のためレフルノミドを追加しなければならなかった(当初治療の失敗)患者さんの割合が、介入群では10.5%、比較群では32.1%でした。つまり、EPA/DHAを併用しなかった場合10人中3人が治療効果不十分でレフルノミドを追加しなければならなかったところ、EPA/DHAを併用場合は10人中1人に減りました。

 

もっとわかりやすくいうと、EPA/DHAを併用した患者さんの5人中1人が治療強化の必要性を免れた、ということになります。逆の見方をしますと、EPA/DHAを併用した患者さん5人中4人は、その恩恵を受けなかったとも言えます。また、EPA/DHAを併用した患者さん87人のうち1人が、味が耐えられず棄権されています。副作用の発生率については両群間で統計学的に有意な差はなかったとのことです。

ところで、介入群ではエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)あわせて5.5g/日が投与され、実際には平均3.7g/日が摂取されたそうですが、3.7g/日のEPA/DHAを食事から取るには何をどのくらい摂取すればよいのでしょうか?

青魚の重さ(生)だと以下になります。

クロマグロ80g (刺身 6〜8切れ)
サバ85g (半身のさらに半分)
ブリ140g (照り焼き 2切れ)
サンマ142g (1尾)
イワシ148g (1.5尾)
アジ550g (4尾)
文部科学省「日本食品標準成分表 2020年版(八訂)脂肪酸成分表」に基づいた計算値

 

A photo taken by Ben Wicks on Unsplash

なお、EPA/DHAはサプリメントとしても販売されており、さらに処方薬としてもロトリガ(2g/カプセル)という薬剤がありますが、適応は高脂血症のみであり、関節リウマチには効能が得られていません。

ここまで書いたことから、以下の5つのポイントが導き出されます。

  • (重要)厚生労働省による適応承認のための評価に使われるような厳しい管理のもとで行われた臨床試験ではないため、有効性・安全性データの正確性には限界がある
  • (重要)200人弱の豪州の関節リウマチ患者さん(平均年齢55歳、関節リウマチ発症後平均4ヶ月程度)という、限られた母集団における研究結果であり、必ずしも他の国・人種・年齢・発症後時期の患者さんにも当てはまるとは限らない
  • EPA/DHAを併用した患者さんの5人中1人が、EPA/DHAを併用することにより、治療強化(もう1剤の追加)の必要性を免れた
  • その効果を得るには毎日イワシ1.5尾程度の青魚を摂取する必要がある
  • EPA/DHAを併用した患者さん5人中4人は、EPA/DHAを併用することによる恩恵を受けなかった

これをどう解釈するかは、患者さんそれぞれの価値観によって様々でしょう。あくまでも、関節リウマチに対する食事療法の研究の一つの例として読んでいただけましたとしたら幸いです。

最後になりますが、EPA/DHAを含むオメガ3脂肪酸についての信頼できる詳細情報は、厚生労働省による以下のウェブサイトで確認いただけます。ご興味のある方はどうぞ。
https://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/overseas/c03/10.html

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