赤身の肉は関節リウマチの発症リスクを高める?

赤身の肉は関節リウマチの発症リスクを高める?

ドックなどでリウマトイド因子陽性が指摘されて精査要請を受けて受診くださり、現時点では関節リウマチは罹患していないと判断された患者様より、「リウマチにならないようにするために食事などで注意できることはありますか?」という質問を受けることがあります。

関節リウマチは生活習慣病ではないため、喫煙以外で日常生活で特に注意すべき点はそれほどないのですが、関節リウマチの発症リスクを高めうる食事因子に関して研究されてきました。今回はその中で、「赤身の肉」に触れます。

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赤身の肉は、以下のメカニズムなどを通して、関節リウマチのような炎症性疾患の発症や病勢増悪に関係しているのではないか、と1980年代から懸念されてきました。

  • オメガ6系脂肪酸(リノール酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸などが含まれるグループであり、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)が含まれるオメガ3系とは異なります)を多く含み、その中のアラキドン酸の代謝物が炎症を助長する
  • 肉に含まれる鉄分が炎症を助長する
  • 肉を高温で料理することにより作られる終末糖化産物(タンパク質と糖が加熱されてできた物質)が、炎症を助長する

実際に、赤身の肉は関節リウマチの発症リスクを高めるのでしょうか?

一万人近くの米国人が登録され、2年ごとに健康や食事の状況を調査している研究からは、関節リウマチの罹患と肉の摂取量に正の相関がある可能性が示唆されました(1)。しかし2年に1度の定点観測日の肉の摂取量でしかなく、また関節リウマチ罹患前か後かについての解析もされていませんので、「赤身の肉が関節リウマチに悪い」ことの根拠としては不十分です。

既に関節リウマチを患っている733人の中国人の患者さんに、関節リウマチ発症前の赤みの肉の摂取量を思い出して回答いただいたという研究では、より多くの赤みの肉を摂取(100g/日以上)された方(全体の20.4%)はそうでない方より関節リウマチの発症年齢が6.46年ほど若かったという所見でした(2)。しかし、肉の摂取量は患者さんの記憶に基づくものであり、やはり根拠としては不十分です。

次の2つの研究は、大勢の方を長期に渡り追跡していく中で関節リウマチを発症していった方としなかった方の、発症前の肉の摂取量に差がないか分析したものです。

まず、スウェーデンにおいて、ある地域に住む40〜74歳の女性(1987年時点)に対して、1987年と1997年に食事内容(過去1年間の平均摂取量)に関する質問票調査を行い、その調査の参加者(1987年の調査回答者は66,651人超)の中で、2003〜2014年の期間に関節リウマチを発症した368人と、発症しなかった方との間で、1987年と1997年の肉の摂取量に違いがあったのかが分析されました(3)。結果は、有意な違いはなかったというものでした。

2つ目は、米国の看護師(これまでに29万人以上)が登録し、2年ごとに健康状態や生活習慣などについての質問票調査に回答する、という大きな前向きコホートにおける研究です。1980年時点で関節リウマチを患っておらず、また1980〜2002年までに行われた質問票調査に回答した82,063人を追跡したところ、546人が同期間中に関節リウマチを発症されました。発症前の赤身の肉の摂取量(発症前の複数の回答の平均)を、発症されなかった方のそれと比較したところ、有意な違いはありませんでした。

いずれも、あくまでも記憶にもとづく平均摂取量回答にもとづくものに過ぎませんので正確性は高くありませんが、発症前の摂取量を見ていると言う点では先に紹介した研究よりも結果(発症した方としなかった方とで有意な差がなかった)が意味を持つかもしれません。

以上はいずれも記憶に基づく食事摂取量に頼る研究です。薬の臨床試験とはことなり、食事などの生活習慣を長期間にわたり厳密に制御することは現実的にも倫理的にも難しいため、ここまでで紹介した研究を超える質の高い研究が行われる可能性は低いため、現時点で存在するエビデンスにもとづくと、「赤身の肉の摂取は関節リウマチの発症リスクであるということを強く示唆する根拠は乏しい」という結論になりそうですね。

ポイント

  • 関節リウマチの発症リスクを高めうる食事因子候補として、赤身の肉に関する研究がおこなわれてきた。
  • いずれも記憶に基づく食事摂取量の質問票回答内容に頼る研究であり、摂取量の正確な測定にもとづくものではない。
  • 無作為割り付けなどは現実的にも倫理的にも難しく、赤身の肉と関節リウマチ発症との間に何らかの交絡因子が存在する可能性もある。
  • 現時点で存在するエビデンスにもとづくと、「赤身の肉の摂取は関節リウマチの発症リスクである」ということを強く示唆する根拠は乏しい。

根拠論文

  1. Front Nutr. 2002 Sep 6:9:923472
  2. Sci Rep. 2021 Mar 11;11(1):5681
  3. Nutrients. 2019 Nov 19;11(11):2825
  4. Arthritis Res Ther. 2007 Feb 8;9(1):R16
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