喫煙は、関節リウマチに、なぜ・どの程度よくないのか?
関節リウマチは自己免疫疾患であり、その発症には、遺伝的要因(20〜30%)と環境的要因(70〜80%)が絡んでいます。環境的要因としては、感染、ストレス、過労、出産などのホルモンバランスの変化、外傷、などとともに喫煙が知られています。特に喫煙は、生活習慣の一つであり制御可能である一方、発症リスクや病状の重症度に大きな影響を与えることが一貫して示されています。
この記事では、喫煙と関節リウマチの関係について、発症リスク、病態のしくみ、治療への影響、患者さんへのアドバイスを含め、最新の知見をもとにわかりやすく解説します。

関節リウマチ発症リスクとしての喫煙
多くの研究により、喫煙によって関節リウマチの発症リスクが上昇することが示されています。特に、血液反応(リウマトイド因子や抗CCP抗体)が陽性である関節リウマチのリスクが顕著に上昇します。そしてそれは、関節リウマチの特定の遺伝的素因を持つ人において顕著です。
- 2010年のメタ解析(Sugiyamaら)によると、男性の喫煙者は関節リウマチの発症リスクが1.87倍、リウマトイド因子陽性の関節リウマチに限ると3.91倍に上昇していました。女性ではリスク上昇は控えめ(関節リウマチ全体でもリウマトイド因子陽性に限っても1.3倍程度)でした。ヘビースモーカー(喫煙年数x平均喫煙本数/日が400超)では男性で2.31倍、女性で1.75倍と高いリスクが示されました。
- スウェーデンの大規模研究(Stoltら、2003年)では、20年以上の喫煙歴を持つ人においてリウマトイド因子陽性の関節リウマチ発症リスク上昇が明確(2.6倍)であり、例え喫煙量が6〜9本/日でも有意にリスクが上昇していました(2.5倍)。
- 喫煙をやめてもその影響はしばらく(10年以上)残りますが、年数をかけて徐々にリスクは低下していきます。
- 喫煙による関節リウマチ発症リスク上昇は、関節リウマチの特定の遺伝的素因を持つ人において顕著であるようです。白血球の膜表面蛋白をコードする遺伝子の一つHLA-DRには数十種類の亜型が存在するのですが、そのうちのいくつかの亜型は関節リウマチとの関連がある(遺伝的素因)ことが古くから知られています。スウェーデンの大規模研究(Klareskogら、2006年)では、その亜型の1つを持つ喫煙者は、非喫煙で亜型を持たない者と比べて抗CCP抗体陽性の関節リウマチを発症するリスクが6.5倍、亜型を2つ持つ喫煙者では21倍にもなりました。
喫煙が関節リウマチに関与する仕組み
喫煙は以下のような複数のメカニズムで関節リウマチの発症に寄与すると考えられています。
- 肺でのシトルリン化と自己抗体(抗CCP抗体)の産生:タバコの煙は肺でタンパク質のシトルリン化を誘導します。「抗CCP抗体」の「CCP」とは、「環状シトルリン化ペプチド」のことです。つまり、タバコの煙がタンパク質をシトルリン化し、これが免疫系に異物と認識され、それに対する自己抗体(抗CCP抗体)が作られるのではないかと考えられています。実際に、喫煙者の肺内には関節リウマチ発症前から抗CCP抗体が検出されることがあります。
- 酸化ストレスと炎症:タバコの煙に含まれる多数の有害物質が酸化ストレスを引き起こし、免疫応答を変化させます。
- 免疫の撹乱:サイトカインの産生、マクロファージの数/機能などに変化を起こし、免疫系のバランスを崩します。
喫煙が関節リウマチの重症度と治療効果に与える影響
関節リウマチ患者が喫煙している場合、以下のような不利な影響が報告されています。
- 疾患活動性が高い:喫煙者は抗CCP抗体やリウマトイド因子陽性率が高く、関節破壊の進行が速くなる傾向があります。
- メトトレキサートへの反応が悪い:喫煙者では、関節リウマチ治療における第一選択薬であるメトトレキサートが無効であるリスクが、非喫煙者に比べ2.69倍に達します。
- 生物学的製剤の効果が低下:喫煙者においては、生物学的製剤、特に抗TNF製剤に対する効果が減弱しやすく、よってそれらの継続率も低い傾向があります。
受動喫煙と関節リウマチのリスク
受動喫煙も、特に小児期における受動喫煙は、関節リウマチ罹患リスクを高めうる可能性が示唆されています。
- 2023年のメタ解析(Zhangら)では、成人期の受動喫煙で関節リウマチ発症リスクが12%上昇、小児期の受動喫煙では34%の上昇が見られました。
家庭や公共の場での禁煙は、子どもを将来の関節リウマチ罹患リスクから守る意味でも非常に重要です。
禁煙のメリット
関節リウマチ発症前でも、関節リウマチに罹患してからでも、禁煙には多くの利点があります。
- 発症リスクは禁煙後から徐々に低下し、20年程度でほぼ非喫煙者と同等になります。
- すでに関節リウマチに罹患している方においても、禁煙により薬剤への反応性が改善し、炎症の程度も軽減される可能性があります。
まとめ
- 喫煙は関節リウマチ発症における最大の環境リスク因子です。
- 特にHLA-DR遺伝子のいくつかの亜型を持つ方では、喫煙によるリスクが著しく増加します。
- 喫煙は関節リウマチの進行を速め、治療効果を低下させます。
- 受動喫煙も、特に小児期の暴露は、将来の関節リウマチ発症リスクを上昇させます。
- 禁煙は関節リウマチ発症前の予防にも、関節リウマチ発症後の治療効果向上にもつながります。
遺伝的な素因は私達の努力で変えることができませんが、喫煙はやめることができる環境要因です。関節リウマチを患っていらっしゃる方、または、家族に自己免疫疾患を患う方がいらっしゃるなどで将来的な関節リウマチの発症を心配している方にとっては、禁煙は健康維持と関節リウマチの予防・進行抑制に大きな効果があります。現在喫煙されている方は、ぜひ医療機関で相談し、禁煙に向けた一歩を踏み出してみてください。関節だけでなく、肺や全身の健康にも良い結果をもたらすことでしょう。
引用論文
- Ann Rheum Dis. 2003;62(9):835-41
- Arthritis Rheum. 2006;54(1):38-46
- Ann Rheum Dis. 2010;69(1):70-81
- Int J Mol Sci. 2014;15:22279-22295
- Clin Rheumatol. 2023;42(3):663-672
- Mod Rheumatol 2024;34(1):68-78
喫煙と関節リウマチ Q&A
Q1:喫煙は関節リウマチの発症に関係していますか?
はい。喫煙は関節リウマチの発症に強く関係しています。特に血液反応(リウマトイド因子や抗CCP抗体)が陽性である関節リウマチとの明確な関連があり、喫煙歴が長いほど発症リスクが高まります。
Q2:どのくらい喫煙するとリスクが高くなるのですか?
1日6〜9本程度の中等度の喫煙でも関節リウマチの発症リスクが上昇すると報告されています。20年以上喫煙を続けた人や、1日20本以上吸うヘビースモーカーでは、特にリスクが高くなります。
Q3:特にある遺伝的素因がある方に、喫煙の影響が大きいと聞きましたが?
その通りです。白血球の膜表面蛋白をコードする遺伝子の一つHLA-DRには数十種類の亜型が存在するのですが、そのうちのいくつかの亜型は関節リウマチとの関連がある(遺伝的素因)ことが古くから知られています。その亜型の1つを持つ方が喫煙すると、関節リウマチの発症リスクが非常に高くなります(抗CCP抗体陽性関節リウマチの発症リスクが6.5倍)。亜型を2つ持つ方が喫煙すると、非喫煙で亜型を持たない方と比べて、抗CCP抗体陽性関節リウマチの発症リスクが21倍になるとの報告もあります。
Q4:喫煙はどうやって関節リウマチを引き起こすのですか?
タバコの煙は肺でタンパク質のシトルリン化を誘導します。「抗CCP抗体」の「CCP」とは、「環状シトルリン化ペプチド」のことです。つまり、タバコの煙がタンパク質をシトルリン化し、これが免疫系に異物と認識され、それに対する自己抗体(抗CCP抗体)が作られるのではないかと考えられています。また、酸化ストレスや慢性的な炎症もRAの誘因になります。
Q5:関節リウマチにかかった後も、喫煙は悪影響がありますか?
はい。喫煙者は関節リウマチが重症化しやすく、治療薬への反応も悪くなります。たとえば、メトトレキサートが無効である可能性が非喫煙者よりも高く、生物学的製剤の効果も低下します。
Q6:受動喫煙でも関節リウマチになるリスクはありますか?
あります。特に子どもの頃に受動喫煙にさらされた場合、成人してから関節リウマチを発症するリスクが34%上昇するというデータがあります。家庭や公共の場での禁煙は、子どもの健康を守る意味でも重要です。
Q7:禁煙すれば関節リウマチのリスクは下がりますか?
禁煙すると、関節リウマチの発症リスクは年々低下していきます。20年後には非喫煙者と同程度になるという報告もあります。また、既に関節リウマチと診断された方でも、禁煙によって治療の効果が高まることが期待できます。
Q8:禁煙に興味があるのですが、関節リウマチの主治医に相談することもできますか?
もちろんです。関節リウマチの診療において禁煙の支援はとても重要です。禁煙補助薬やカウンセリングなど、あなたに合った方法を医師と一緒に探しましょう。