コーヒーの、関節リウマチ発症リスクや治療への影響

コーヒーの、関節リウマチ発症リスクや治療への影響

関節リウマチは自己免疫疾患であり、その発症には、遺伝的要因(20〜30%)と環境的要因(70〜80%)が絡んでいます。環境的要因としては、感染、ストレス、過労、出産などのホルモンバランスの変化、外傷、などとともに喫煙が知られています。生活習慣因子として、喫煙以外にも、食事、飲料などが関節リウマチのリスクや病勢にどのように影響するのか研究されてきました。

今回は、世界中で毎日大変多く消費されているコーヒーと関節リウマチの関係について、最新の知見をもとにわかりやすく解説します。

目次

コーヒーの摂取は関節リウマチ発症リスクに影響を与えるか?

コーヒー(カフェイン入りコーヒー、デカフェコーヒー)の、関節リウマチ発症リスクへの影響を分析した研究がこれまで多数行われてきましたが、結果は一定せず(関連がないとするもの、リスクを高めるとするもの、リスクを下げるとするものなどがあります)、統一した結論には至っていません。いくつかの研究を紹介します。

  • 集団を一定期間追い、その間の生活様式と関節リウマチ発症状況を調査した研究のみを集め、そのデータを解析した研究(メタアナリシス)では、デカフェコーヒー(RR 1.89)が関節リウマチ発症リスクを高めることが示唆されました。具体的に、1杯/日追加することにより関節リウマチ発症リスクを1.11倍上昇させるというデータでした。他方、カフェイン入りコーヒーと関節リウマチ発症リスクとの関連は見られませんでした。(参考論文1)
    • カフェインの除去方法は大きく分けて、水による抽出、二酸化炭素による抽出、有機溶媒(薬品)による抽出の3つがあります。デカフェが関節リウマチのリスクを高める機序としては、特に有機溶媒(ベンゼン、アセトン、水酸化アンモニウム、硫酸、酢酸エチル、塩化メチレン、クロロホルム、エーテル、アルコール、トリクロロエチレン、四塩化炭素など)が関与していると考えられます。少量であってもこれらの溶剤の残留物を長期に渡り摂取することで、関節リウマチなどの結合組織疾患を引き起こす可能性が示唆されています。なお日本では、有機溶媒を使ってデカフェ処理したコーヒーを製造することも販売することも禁止されています。
  • 英国における大規模な長期追跡調査(平均8.15年に渡り479,494人を追跡)では、カフェイン入りコーヒーの摂取(1〜2杯/日)が関節リウマチ発症リスクを低下(0.838倍)させる可能性が示されました。デカフェコーヒーと関節リウマチ発症リスクとの間の関連はありませんでしたが、デカフェコーヒー飲酒者が圧倒的に少なかったため、統計的に有意な関連が見出せなかった可能性は否定できません。(参考論文2)
  • フランスにおける長期追跡調査(21年間に渡り62,630人の女性を追跡)では、1日3.5杯以上のカフェイン入りコーヒーを飲む人は、関節リウマチの発症リスクが高い(1.29倍)ことが示されました。特に喫煙歴のない人においてその傾向が強く見られました(1.65倍)。デカフェコーヒーも解析上は発症リスク上昇(1.25倍)の可能性を示唆するものでしたが、統計的に有意なレベルではありませんでした。(参考論文3)
  • 米国における国民栄養調査データを用いて4310人(関節リウマチ患者275人を含む)に行った質問票調査(長期追跡ではなくある時点でコーヒー摂取頻度と関節リウマチの有無を質問したもの)では、カフェイン入りコーヒーと関節リウマチ発症リスクとの間に関連は示されませんでした。(参考論文4)

コーヒー(特にカフェイン)の炎症・免疫系への影響(作用機序)

カフェインと関節リウマチとの接点は「アデノシンA2a受容体」であると考えられています。つまりカフェインがアデノシンA2a受容体を遮断することにより、炎症を助長し発症リスクを増加させるのではないかというものです。

実際、アデノシンA2a受容体遺伝子の特定の亜型をもつ方がカフェインを長期的に摂取した場合に、関節リウマチの発症リスクが特に高いことを示す研究もあります。(参考論文5)

また、アデノシンは、関節リウマチの主たる治療薬であるメトトレキサートの作用機序においても重要であり、メトトレキサートがアデノシン濃度を高め、様々な作用により炎症を抑えることが、メトトレキサートの作用機序の一つと考えられています。カフェインはアデノシンがその受容体に結合し作用するのを阻害することから、カフェイン摂取はメトトレキサートの効果を減弱させるのではないかと懸念されており、実際それを示した研究(180mg/週以上のカフェイン摂取は120mg/週未満の摂取に比較して、メトトレキサートの効き目を減らす)もあります。(参考論文6)

おわりに

コーヒーが、カフェインのアデノシン受容体への作用などを通して、関節リウマチの発症リスクを高めたり、メトトレキサートの効果を減弱させたりする可能性を示唆する研究はありますが、一定の結論には至っておらず、またそれぞれの方の遺伝的背景の違いなども関係し、コーヒーの影響も異なるものと推察されます。よって、現時点で、関節リウマチの発症リスクや治療の観点から、積極的にコーヒーの摂取の推奨や、摂取を控えるべきとのアドバイスを行うレベルには至っていません。

参考論文

  1. Front Nutr. 2022 Feb 10:9:822557
  2. Nutrients. 2022;14(8):1554
  3. Rheumatology (Oxford). 2023;62(5):1814-1823
  4. Front Nutr. 2022 Sep 12:9:926190
  5. Pharmacogenomics. 2020;21(11):735-749
  6. Arthritis Rheum. 2003 Feb;48(2):571-572
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