朝のこわばりとは?
関節リウマチに関するネット記事などを読んでいますと、「朝のこわばり」という言葉を目にします。一般の方には聞きなれない言葉ですが、実際に関節リウマチや似たような炎症性関節疾患を患っていらっしゃる方には、説明せずとも何を意味するのか直感的に理解いただける言葉だと思います。そんな「朝のこわばり」についてのピュアな疑問にお答えします。

朝のこわばりとは?
「朝のこわばり」とは、朝起きたときに感じる関節の硬さ、動かしづらさ、痛みを指します。また、長時間座った後や、長時間四肢を動かさずにいたあとなどにも同様な症状が出ることがあります。時間がたったり体を動かすことで、徐々に楽になっていきます。
カナダの研究者が関節リウマチ患者さん24人へのインタビュー結果を分析して次のような定義を提唱しています。
「ベッドから起きた直後や長時間同じ姿勢でいた後に、関節が動かしにくくなること。両側の関節に起こり、動かすことで改善する。」
しかし、世界的に認められた統一的な定義はまだありません。またその持続時間も、「完全に症状が消えるまでの時間」なのか、あるいは「最大限に改善するまでの時間」なのか、など、統一的な見解が得られていません。
朝のこわばりは、関節リウマチでしか経験されない症状なの?
「朝のこわばり」は、関節リウマチを代表とした、炎症性関節疾患を患う患者さんの多くが経験される症状ですが、炎症性ではない病態(例えば軟骨がすり減る変形性関節症や半月板損傷、関節周囲組織の損傷など)の患者さんでも経験されます。また、関節に炎症がなくとも、年齢とともに関節液(滑液)の分泌が減り、また軟骨も乾燥して硬くなります。これにより、朝や、数時間関節を使ってなかった後などに、短時間(10~15分程度)の関節のこわばりを自覚されることがあります。ですが、「こわばり」の持続時間が異なり、炎症性の関節疾患の場合では、1時間以上続くのが特徴的で、す。
こわばっているとき、関節で一体何が起こっているの?
いくつかの生物学的メカニズムが関与しています。
1. 関節内のフィブリンの蓄積と白血球(特にその中でも好中球)
特に関節炎の起こっている関節の関節液中には、フィブリンというタンパク質や好中球(白血球の一つの種類)が豊富に存在します。寝ている間など、しばらく関節を動かさないでいると、フィブリンは関節の滑膜(関節を覆っている膜)沿いにたまります。通常は、体を動かし始めると、フィブリンは分解されます。しかし、関節に炎症が起こっていると、フィブリンが分解されにくくなり、それがこわばりという症状に寄与すると考えられています。なぜ分解されにくくなるのか・・・その一つの原因は、好中球です。好中球は骨髄で作られたのち炎症が起こっている局所に行き、数時間で生涯を終えます。体で炎症が起こっているときに骨髄で作られる好中球の多くは、早朝骨髄を出発し炎症局所に向かいます。炎症局所(例えば関節内)で役目を終え死んでいく好中球から放出されるDNAなどが、夜間蓄積しつつあるフィブリンと結合すると、フィブリンが硬く分解されにくくなり、それにより「朝のこわばり」がより強く感じ、また長く続くのではないかと考えられています。
2. 炎症性サイトカインの産生量の日内リズム
関節リウマチにおける関節局所の炎症の維持・増強(白血球同志を刺激し合うなどを通して)に重要なサイトカインであるIL-6やTNFαの産生は夜間に増加し、早朝にピークを迎えます。これに対して、私達の身体の中でもそれに打ち勝つためにステロイド(正確には、ステロイドホルモンの一種の糖質コルチコイド)が早朝分泌されますが、炎症が強いと、体内ステロイドでは十分に抑えきれず、朝のこわばりが起こります。
3. 腱鞘炎の併存
こわばりは、関節の炎症(関節炎)だけでなく、手指を曲げたり伸ばしたりするときに使う腱を覆う鞘の炎症(腱鞘炎)によっても起こります。実際、関節リウマチや、炎症性関節疾患を患う患者さんには、高頻度で腱鞘炎も併存しています。そして、腱鞘炎も併存する場合の方が、「こわばり」を自覚されることが多いという研究報告があります。
朝のこわばりが長引く場合は、早めに医療機関に相談されることをおすすめします。