更年期の関節痛の原因にはどんなものがあるのですか?
更年期、更年期障害とは
年齢とともに卵巣の中の卵胞(卵子を内包する組織)がなくなって、排卵しなくなることにより、月経が起こらなくなります。「1年間月経が一度も来なかった」ら「閉経」とされます。通常は、閉経の1~2年ほど前から、周期が乱れる(間隔が広がる)、月経期間が短くなる(来たと思ったらとすぐ終わる)などの生理不順が起こり始めます。通常、45歳から55歳で「閉経」を迎えます。閉経すると、卵巣から出ていた女性ホルモン『卵胞ホルモン(エストロゲン)』の分泌が低下し、身体と心に様々な影響が起こります。このときにあらわれる様々な症状を、「更年期症状」といいます。また、通常閉経を迎えるよりもっと早い年齢でも、手術により両側の卵巣を除去したり、お薬により卵巣機能を抑えている場合などは、卵胞ホルモンの分泌が減りますので、更年期症状が出ることがあります。
卵胞ホルモンには、子宮内膜や乳房への作用とともに、血管、自律神経、骨、関節、代謝などの健康を保つ働きもあります。そのため、更年期を迎えて卵胞ホルモンが分泌されなくなると、身体と心に様々な不調が増えていきます。関節痛も、その一つです。
更年期症状には、卵胞ホルモン低下開始後比較的早い時期に出る症状(血管や自律神経、心の症状)と、遅い時期(ホルモン分泌が長期にわたることにより臓器に変化が起こり始める頃)に出る症状(関節痛、骨密度低下、脂質異常など)があります。関節痛は後者(遅い時期に出る症状)です。
更年期の女性のどの程度が関節痛を経験するのですか?
関節痛が、更年期に移行する女性によく見られる症状であることは、古くは1925年頃から認識されており、50%以上が経験すると推定されています。好発年齢は45〜55歳頃で、この年代の女性は、閉経前または閉経後の女性に比較し、関節痛を自覚する頻度は2倍ほどもあります。ただ、この年代の女性の関節痛の原因は様々です。

更年期の女性が経験する関節痛の原因にはどんなものがありますか?
以下に簡潔に箇条書きでリストアップします。更年期における卵胞ホルモンの分泌量の低下は、狭義の「更年期に関連した関節痛」の直接的原因であるだけでなく、免疫のバランスを乱して自己免疫を機序とする関節リウマチを誘発したり、軟骨細胞の代謝を乱して軟骨の擦り減りを主病態とする変形性関節症の形成を加速させたりします。このように、他の年代に比べて特にその年代の方が関節痛を経験しうることが多いのには、卵胞ホルモンの分泌量の低下が、直接的、または間接的に、関わっています。
メカニズム | 原因やその局在部位 | |
狭義の「更年期に関連した関節痛」 | 卵巣からの卵胞ホルモン分泌量が下がり、その変化に慣れるまでの期間(数年程度)関節に痛みを自覚するというもの | |
関節における炎症が原因の関節痛 (いわゆる「関節炎」) | 感染によるもの | パルボウイルスB19(リンゴ病の原因ウイルス)、HIV急性感染、風疹、淋菌など |
自己免疫によるも | 関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、多発性筋炎、乾癬性関節炎など | |
結晶が誘発する炎症によるもの | 痛風、偽痛風など | |
関節における炎症以外の原因による関節痛 | 変形性関節症(軟骨の擦り減り) | へバーデン結節、ブシャール結節など) |
内分泌病態 | 甲状腺機能低下、副甲状腺機能亢進、ビタミンD欠乏など | |
薬剤 | アロマターゼ阻害薬など | |
関節ではなく関節の周辺組織における病態 | 筋肉や、筋/腱の病態 | ばね指やドケルバン病など |
骨の病態 | ||
線維筋痛症 |
狭義の「更年期関節痛」って何ですか?
更年期に、卵巣からの卵胞ホルモン分泌量が下がり、その変化に慣れるまでの期間(典型的な例では数年程度)関節に痛みを自覚するというものです。月経が来なくなる数ヶ月〜数年前から自覚する場合もあります。狭義の「更年期に関連した関節痛」では、関節局所で炎症などが起こっているわけではなく、時間が経っても関節の変形も起こりません。更年期の多くの方が関節痛を経験されるものの、他の更年期の症状に比べ、「更年期に関連した関節痛」のQOLへの影響は小さい場合が多いですが、関節痛が最も辛い更年期症状である方もいらっしゃいます(21%)。
狭義の「更年期関節痛」はどのようなメカニズムで起こるのですか?
卵巣から出ていた女性ホルモン『卵胞ホルモン(エストロゲン)』の分泌の低下が直接的な原因であると考えられています。実際、ホルモン補充療法により症状が改善する(全員ではないですが)ことや、やめると再燃することが、その考えを支持しています。
卵胞ホルモン(エストロゲン)は、多くの細胞に対して多様な働きかけをしますが、神経細胞への働きかけを通して私達が「痛みをどう感じるか」にも影響すると言われています。例えば、私達の身体に内在する痛みの抑制系(痛み刺激が入ってきたときに、身体が実際に感じる痛みの程度をできるだけ小さくしようとする仕組みで、内因性オピオイドなどが関与する)が正常に作動するために必要とも言われています。更年期に、この痛みの抑制系の維持に必要だった卵胞ホルモン(エストロゲン)が減少することが、多くの方が関節痛を経験するメカニズムの一つかもしれません。
他にも、卵胞ホルモン(エストロゲン)は、骨や軟骨、関節滑膜を構成する細胞、そして様々な免疫担当細胞にも、いろいろな形で働きかけをすることがわかっており、狭義の「更年期関節痛」の発症と持続に、実際にどのメカニズムがどの程度関与しているのか、まだ明確にはわかっていません。
狭義の「更年期関節痛」の痛みって、どの関節に波及しうるのでしょうか?
更年期関節痛は、全身の様々な関節に起こる可能性があります。特に多いのは、手首や手指で、他にも膝、足首、足指、股関節、肩、首などにも起こることがあります。
狭義の「更年期関節痛」長く続くのでしょうか?
狭義の「更年期関節痛」は、卵巣からの卵胞ホルモン分泌量が下がり、その変化に慣れるまでの期間(典型的な例では数年程度)続くのが一般的ですが、個人差があります。ただ、更年期が過ぎても痛みが続く場合、狭義の「更年期関節痛」以外の関節痛の原因疾患が併存していた可能性や、もともと狭義の「更年期関節痛」ではなく別の原因であった可能性もありますため、医療機関で一度評価を受けた方が良いかもしれません。
「更年期関節痛」が続くと、いずれ関節の変形なども起こりうるのでしょうか?
狭義の「更年期関節痛」のみの場合は、関節リウマチや変形性関節症のような関節破壊を起こすことはありません。
狭義の「更年期関節痛」と関節リウマチを見分けるには? に続く
参考文献
Menopausal arthralgia: Fact or fiction. Malgorzata Magiano, Maturitas. 2010:67(1);29-33
Musculoskeletal pain and menopause. Fiona E Watt, Post Reprod Health. 2018:24(1);34-43
The musculoskeletal syndrome of menopause. Wright VJ, et al. Climacteric. 2024:27(5);466-472
Equol: a metabolite of gut microbiota with potential antitumor effects. Jing Lv, et al. Gut Pathog. 2024:16(1);35
(1) 更年期の関節痛の原因にはどんなものがあるのですか?
(2) 狭義の「更年期関節痛」と関節リウマチを見分けるには?
(3) 狭義の「更年期関節痛」に対してはどのような治療がありますか?