飲酒は関節リウマチの活動性を下げ骨破壊を遅らせる?
関節リウマチは生活習慣病ではないため、喫煙以外で日常生活で特に注意すべき点はそれほどないのですが、喫煙と同じく嗜好品として親しまれているお酒は、関節リウマチにどのような影響があるのでしょうか?別の投稿で、飲酒による関節リウマチの「発症リスク」への影響について書きました。今回は、関節リウマチ患者さんにおける飲酒の「病気の活動性」への影響(より悪くしてしまうのか、活動性を下げる効果があるのか)についてみてみましょう。

別の投稿にも書きましたように、研究室レベルでは、アルコール摂取は、炎症局所に集まっている白血球らがお互いを刺激したり炎症を助長させるために分泌するサイトカインという物質の分泌を抑制したり、炎症を制御する抑制性のサイトカインの分泌を促進したり、さらに炎症に加担している白血球そのものの活性を落としたり、などのメカニズムが示唆されており、それらもあって関節リウマチの発症リスクや病気の活動性への影響がこれまで調べられてきました。
飲酒のような環境因子と病気の活動性との関連を調べる研究には、「■■■という病気を患う方を▲▲年間追跡し、追跡中に飲酒を続けた方と飲酒をしなかった方との間で、追跡期間前後の病気の活動性の変化に差があるかを調べる」という前向きまたは後ろ向きコホート研究や、「■■■という病気を患う方に質問票調査を行い、最近(やそれ以前なども)の飲酒状況とその時点での病気の活動性を回答いただき(アクセスできれば主治医などから病気の活動性に関するデータを入手し)、飲酒と病気の活動性との間に関連があるかを調べる」という横断研究などがあります。前者の方がより正確に飲酒と病気の活動性との関連を分析できますが、後者に比べてはるかに人手も時間もかかります。しかしながら、日本を含め世界には、何百人、何千人の関節リウマチの患者さんに登録いただき、長きに渡り様々なデータ(生活習慣に関するデータや臨床データ)を定点観測/収集し、前者のような研究を可能とするレジストリ(データベース)があります。
それらデータベースの分析を通して、これまでに得られた見解を紹介します。
まずは、患者さんに回答いただいた飲酒状況と、その時点での病気の活動性との間に関連があるかを調べた14の横断研究(合計で関節リウマチ患者さん16,347人)の結果を、それぞれの研究の質にもとづく比重を与えたうえで統合解析したという研究です(引用論文1)。
結果としては、飲酒しないと回答した患者さんより、飲酒すると回答した患者さんの方が、回答時点での病気の活動性が低かったそうです。どのくらい低かったかといいますと、例えば「腫れてて押されると痛い関節の数が7つから5つに減った」程度でした。飲酒する方を、飲酒量の違い(普通・多め)で更に分析した研究もありましたが、飲酒量の違いの基準が研究間で異なり、その上で無理やりまとめてみても、普通の飲酒量の方と多めの飲酒量の方で有意な違いは見られなかったそうです。
この研究を持って、「飲酒をした方が関節リウマチの活動性が下がる」と言えるでしょうか?次のような指摘ができますね。
- 飲酒をしていたから関節リウマチの活動性が下がったのではなく、関節リウマチの活動性が高い方はメトトレキサートを内服している方が多く、同薬の安全性の観点から医師より飲酒を控えるよう指示されていたので、結果活動性が低い方の方が高い方よりも飲酒をしている方が多かったのでは?(交絡因子の存在)
- 関節リウマチの活動性が高い方は低い方に比べ体調もすぐれないので飲酒を控えることが多かっただけなのでは?(因果関係の検討における時間的順序(temporality)の問題(因果関係が逆である可能性))
- 現時点での飲酒量の自己申告にもとづいているが、その時点に至るまでの飲酒量を本当に正確に正直に申告しているのか?(暴露の測定(想起)の精度の問題)
横断研究はレジストリさえあれば短時間で比較的容易に実施できるのですが、これらのようなバイアスや限界がありますので、暴露(飲酒)と結果(関節リウマチの活動性の上昇・低下)の因果関係を示す根拠としては弱いのです。従いまして、「飲酒をしている方のほうが、関節リウマチの活動性は低いことを示唆するが、そこに因果関係があるかは不明」というのが現実的な見解ではないでしょうか?
次に、レジストリ登録時や登録後の飲酒量(自己申告)と、登録後一定期間が経過した後の関節リウマチによる骨破壊(X線所見)の程度に関係があるかを分析した研究の結果を統合解析したという研究です(引用論文2)。
では結果はどうだったのでしょう?飲酒による関節リウマチの「発症リスク」への影響(リンク)の場合と同様に、お酒を飲まない方に比べて、20g/日以下のアルコール摂取をされた方のほうが、骨破壊(X線所見)の進行度が若干小さいという結果でした。しかしこれは男性だけに見られた所見で、女性においては統合解析結果としては特に有意な差がないというものでしたが、一つ一つの研究結果を見ますと、飲酒される方の方が進行度が大きいと示したものもありました。また、性別に関係なく、20g/日超のアルコール摂取をされた方の骨破壊進行度はお酒を飲まない方と特に差がありませんでした。
ちなみに、20gのアルコールとは、おおよそ以下の飲料の摂取になります。
- 缶チューハイ (7%) 350ml (1缶)
- ビール (5%) 500ml (中瓶1)
- ワイン (12%) 200ml (ワイングラス2杯)
- 日本酒 (15%) 180ml (1合)
横断研究と違い、結果測定の一定期間前におけるアルコール暴露量の調査(自己申告)結果を用いていますので、因果関係検討に際して時間的順序(temporality)という問題性は低いです。しかし、交絡因子の存在の可能性(前述したメトトレキサート内服など)は否めません。
これらより、「飲酒をしている方のほうが、関節リウマチの活動性は低いことを示唆するが、そこに因果関係があるかは不明」「男性においてのみ、20g/日以下のアルコール摂取をされた方のほうが、骨破壊(X線所見)の進行度が若干小さいことを示唆するが、そこに因果関係があるとは厳密には言えない」とう現時点での現存するエビデンスにもとづく見解に辿り着きます。「一定量の飲酒は関節リウマチにはいいですよ」と助言できるに十分なエビデンスは存在しません。
他方、アルコール摂取は様々な負の影響ももたらしえます。肝臓(アルコール性肝炎、肝硬変、肝がん)はもちろんのこと、がん(口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん(お酒を飲むと顔の赤くなる方がアルコール摂取を頻回にされると特にリスクが高まります)、肝臓がん、大腸直腸がん、乳がんなど、様々な臓器のがんのリスクを上げます)、血圧、不整脈、心臓、脳、などです。飲酒時の言動により人間関係にも負の影響を及ぼしたり、就業にも負の影響を及ぼすこともありえます。また、関節リウマチの治療として内服されるお薬の副作用リスクにも影響しえます。例えばメトトレキサートを内服されている方が1日平均16gを超える量のアルコールを含む飲料を毎日摂取した場合、肝臓の数値が上がってくるリスクが高まります(引用論文3)。アルコール摂取は関節リウマチ発症リスクを下げるかもしれませんが、それ以外の健康リスクを高めた結果、総合的には負の影響を持つということになる場合も多々あるでしょう。単に関節リウマチ発症リスクへの影響だけでなく、他の要素も含め、合理的な判断を心がけましょう。
ポイント
- 飲酒をしている方のほうが、関節リウマチの活動性は低いことが示唆されているが、そこに因果関係があるかは不明
- 男性においてのみ、20g/日以下のアルコール摂取をされた方のほうが、骨破壊(X線所見)の進行度が若干小さいことが示唆されているが、そこに因果関係があるとは厳密には言えない
- データ抽出に用いられた研究は、いずれも記憶に基づく質問票回答に頼る研究であり、また摂取期間に関するデータもなく、病気の活動性を下げるために、また骨破壊の進行度を下げるために必要な正確な摂取量/期間は明確にはしめされていない。
- アルコールが自己免疫を抑制するという実験室レベルでのデータはあるが、アルコール摂取が直接ではなく別の因子(交絡因子)を介して関節リウマチの活動性を下げている可能性もある。
- アルコール摂取は、健康に対して様々な負の影響ももたらしえるので、単に関節リウマチの活動性への影響だけでなく、他の要素も含め、合理的な判断を心がけるべきである。